〜序〜
今回は元素転換の話ではなく、窒素の循環について。

人の場合、個体差は大きいが、平均的にはタンパク質が体重の15%を占める。脂肪細胞の脂肪がただの燃料であるのに対し、体内のタンパク質は全て意味のある構造体や生理作用を持ち、個々の細胞の制御を受けて合成(分解)される。

体内のタンパク質は、その役目を果たしたもの、活性を失って劣化したもの、損傷したものが常に発生するが、それらは役目がないどころか、ホメオスタシス等を阻害するゴミと認識され、分解を受けることになる。その量たるや体内における全タンパク質の2%と言われ、体重が65kgの人であれば、1日200gものタンパク質が分解される。

じゃあ、筋肉をつけようと思ったら、200g以上タンパク質を摂らないといけないの?というのは早計である。

総分解量の2/3はタンパク質の合成に再利用、つまり、約70%はリサイクルされて、新たなタンパク質組織へと生まれ変わるのだ。

つまり、転換や燃焼によって、総分解量の1/3はただ生きているだけでも完全に失われるため、生命維持のために、その分を食事から摂取する必要がある。60kgの人であれば、体重の0.1%に当たる60gのタンパク質を摂取しないといけないと言われる生理学的な理屈である。

もちろん、分解的な運動を長時間行う者(※)や激しい運動を行う者(※)、タンパク質を毎日放出(♂)している人は、それぞれの状況を加味して、平均値の0.1%を大きく上回る係数のタンパク質を摂取する必要がある。

※ 強度は軽くとも持久的な有酸素系もウエイトトレーニング的な運動も分解量が多い上に、運動時間も比例する



〜人における窒素循環極大化〜
サプリ塾で何度か紹介しているが、パプアニューギニア島の一部の部族はキャッサバやタロイモ、ヤシ類と言った高デンプン・高食物繊維食しか食べないのに、驚くほど筋肉隆々なのである。

超低タンパク質食なのに筋肉隆々となるメカニズムは、未だ完全に解明されていないが、他の人々と腸内細菌叢が全く異なることが原因であると言われている。

かの人々は腸内細菌叢が少しばかり、草食動物である牛に似ているとされ、窒素固定菌や尿素分解菌、アンモニア利用細菌が多いとされる。中でも、尿素分解細菌とアンモニア利用細菌によって、体内の尿素由来の窒素原子が効率よくリサイクルされることで、超低タンパク質でも十分(※)なタンパク質合成が行われているもと目されている。

※ 十分というよりも、見た目的には十二分!

これらの腸内細菌の優勢(偏り)は多量の食物繊維摂取が軸になっていると考えられており、実際に他の人々の低い食物繊維消化率とは異なり、草食的な適応を遂げた食物繊維消化率を持っている(※)。

※ ちなみに「クリア」や「VIVO」には、セルロース分解酵素が配合されており、食物繊維の消化を助ける
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もちろん、この機能は腸内細菌叢が決定される乳幼児期の食生活の影響を大いに受けた賜であり、乳児期の口移しの食べ物や産まれた際の産道における菌の受け渡しも影響しているだろう。

腸内細菌叢は乳幼児期に決定され、容易に改編されることや覆ることはなく、その改善にはシンバイオティクスの不断の継続が必要とされる為、一朝一夕ではかの体質を真似して再現することは難しいと考えられる。



〜後天的体質改善の可能性〜
皆さんもご存知かと思うが、4,100日以上、ほぼフルーツだけしか食べない生活を続けている「体を張るフルーツ研究家」中野瑞樹(※)さんという方がおられる。

フルーツしか食べないということは、超低タンパク質食であり、ニューギニアの部族の人たちよりも、低タンパク質食だと想像できるが、曰く、体調はすこぶる好調だそうだ。若々しく健康そうとの評判である。

中野氏が腸内細菌の検査をしたところ、豆類の根などで増殖して空気中の窒素を取り込んでタンパク質を合成するとこで知られる窒素固定菌の類いが存在している稀有な腸内環境であることがわかったそうだ。

実際の所は窒素固定菌が本命ではなく、パプアニューギニアの人たちと同様に、尿素由来窒素原子のリサイクル率を向上させる細菌が優位となり、タンパク質合成が安定しているのだと思うが、いずれにしても、フルーツ食を10年以上続けているうちに、腸内細菌叢が改編されたという事実がそこに存在する。
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もう一つのルートとして忘れてはならないのは、低タンパク質の環境に完全適応した場合、「序」で紹介した体内タンパク質分解量の2/3となるユビキチン-プロテアソーム系やオートファジーなどによる分解→リサイクルが効率化され、2/3以上のより高いタンパク質リサイクルに変化している可能性だ。

ともあれ、被験者こそたった一人ではあるが、長い歳月と不断の高食物繊維生活は、腸内細菌叢を大きく、そして、明確に改編する可能性を示唆しているのではないだろうか。

※ フルーツ食でミツバチが寄ってくるというが、私の頭にもミツバチが入って来るくらいで、誘引物質はフェロモンであることから考えると、男性ホルモン由来の方が説明がつく



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