〜速筋(白筋)のメインエネルギー〜
AT以上の出力で運動する際、主に速筋が主体となる。強度が高まるに連れ、速筋の利用率は高まる。

速筋は元々、細胞内ミトコンドリア数が少なく、脂肪酸酸化によるATP合成が苦手であるため、出力の大きい仕事を行う際には、膨大な量のグルコースを消費する。このため、血中グルコースによって、要求量の全てを賄うことはできず、主に筋中グリコーゲンに依存することになる。

筋肉は人体で最大のグリコーゲン貯蔵器官であるが、それでも最大出力の全力で運動すると、ものの数分で消費してしまう。



〜酸素負債〜
「無酸素運動といっても大量の酸素を必要とする」

最大出力で運動した場合、ATPの再合成を行うために筋細胞中に蓄えられたクレアチンリン酸の9割以上がクレアチンに分解される。ADPをクレアチンリン酸がATPへと再生し、クレアチンへと変化するが、再びリン酸と結合することで、筋細胞内のクレアチンリン酸レベルは速やかに回復する。この反応には多量の酸素が必要となる。

体内には血液を介して循環する酸素と肺や筋肉などの臓器に蓄えられた酸素が存在するが、AT以上の運動を継続すると、平常時の呼気(換気)で得られる酸素を大きく凌ぐ消費が起こるため、体内保存量の90%以上が消費されてしまう。

AT以上の運動では、通常呼気では賄えない量の酸素を全身から借り入れてくる形となるため、運動後に酸素を余分に取り入れる必要が出てくる。身体から借りてきた酸素を返済しないといけないからだ
。キツめの運動の後に呼吸が激しくなるのはこのためである。

この現象を酸素負債と呼ぶが、現実としては単なる酸素の借り入れの和が酸素負債の量とはならならず、それよりも遥かに多い酸素を余分に吸い込まないといけない。



まず、先に挙げたクレアチン→クレアチンリン酸生成時における酸素消費である。

そして、最大の酸素消費となるのが無酸素反応によってATPを取り出すためにグルコース(グリコーゲン)を分解した際に生じる乳酸の代謝である。酸素を用いない無酸素代謝によってグリコーゲンを分解した際には多量の乳酸が発生するが、この乳酸をエネルギー化するには更なるATPと酸素を必要とするのだ。

酸素負債と一口に言っても、体内から借りてきた酸素の返済とクレアチンリン酸の再生、そして、乳酸除去といった運動によって引き起こされる代謝活動によって発生する酸素需要の増大がその大部分を占める。

無酸素運動は字面的には酸素を必要としていないが、それはATP発生段階においての話であり、実のところはイメージとは異なり、(強度と持続時間に依存するが)膨大な酸素を必要とする。このため、無酸素運動のパフォーマンスアップには栄養補給テクニックによるクレアチンリン酸並びにクレアチン蓄積量向上(※)やグリコーゲン貯蔵量の向上ばかりに目が向けられがちとなるが、実際には酸素供給能力の改善が重要なファクターとなる。

※ クレアボル系は外因性クレアチン供給と内因性クレアチン生成促進によるクレアチン貯蔵量最大化だけでなく、リン酸供給によるクレアチンからのクレアチンリン酸再合成率と再合成スピードを改善する狙いを持つ



【唐突な用語解説】
無酸素閾値と無酸素運動の限界-1「無酸素性作業閾値
無酸素閾値と無酸素運動の限界-2「全力活動限界時間は1分!
無酸素閾値と無酸素運動の限界-3「無酸素運動は大量に酸素を消費する!

BDNF