Q:テレビで、探検家の方が普段から重りを足に巻いているのを観たのですが、アレって効果があるのでしょうか?

本編-3
幻影編「少年漫画の功罪?」


リストウエイトやアンクルウエイトに過大、いや幻想的とも言える過剰な期待を持っている人々。そして、ガウラー握力マニア達

これらの人々を生み出した一因となるのが、少年ジャンプ黄金期の「ドラゴンボール」や「ろくでなしブルース」だと分析できるでしょう。

ドラゴンボールの重たい道着や亀の甲羅はもちろん、ろくでなしブルースにも登場したリストウエイト。そして、10円硬貨を指の力で曲げてしまうキャラクター・・・。

多感な時期に、これらの場面に出会った場合、影響を受けない方が難しいはずである。リストウエイトやアンクルウエイトを普段から付けていれば、強くなれそうな気がしてしまうのも致し方ありません。他の筋肉を差し置いて、握力(だけ)を鍛えたくなる人も沢山いたと想像できます。

ともあれ、これらの漫画が未だに、リストウエイトや握力グッズの売上げに影響していると言っても過言ではないでしょう。



さて、実際の所、リストウエイトなどに漫画で描写されたような効果はあるのでしょうか?握力を鍛えに鍛えれば(※)、硬貨曲げは可能だと思いますが、リストウエイトによるパンチ力のアップやスピードアップは可能か否か?

最も簡単な視点から考えると、慣性の問題があります。増加したウエイト分の慣性が余分に発生するので、練習でパンチを放つ際、余分にブレーキをかける必要が出てきます。実戦においては、慣性を気にせずに殴り抜けることは希で、拳は必ずコントロール下にあるべきです。常に余分にブレーキを発生させる、すなわち、拮抗筋を無駄に緊張させる癖が付いてしまうと、かえってスピードが遅くなってしまう可能性があります。この点から考えるとスピードアップに関しては、難しいかも知れません。

同様にアンクルウエイトによる走力アップも、問題が発生します。パンチであればピッチングモーメントのみですが、走る動作はこれに加えてヨーイング等の複数のモーメントが発生する為、ウエイトを装着して走るフォームが本来の理想的なフォームとかけ離れてしまう可能性があります。

また、どちらにも共通する問題として、全力で行った場合、関節等の怪我のリスクが高まります。ウエイトが重たい場合、重心もずれるため、これまで培った動きが変わってしまい、結果的にパンチ力の低下や走力の低下が起こる可能性が考えられます。



重心やモーメントだけで考えると、リストウエイトやアンクルウエイトに少年漫画で描写されるような効果は望めないというのが一般的な考えとなります。

しかし、ボクシングなどで、ディフェンスのためにグローブを構え続けるのがキツイ人などは、軽めのリストウエイトを付けて普通のジョギングを行うことで、その問題が改善される可能性があります。

同様にごく軽めのアンクルウエイトやウエイトシューズを短距離のオフシーズンの練習時に利用することで、関節やハムストリングス、前脛骨筋の意図的な強化を狙えるかも知れません。

最も素早く動くべき末端にウエイトを装着する行為は、一般的には否定されがちですが、やりようによっては真剣な競技にも有用かも知れず、また、古いやり方であっても実践してみると一般論と異なって、意外にパフォーマンスが向上するやも知れない(※2)ので、試行錯誤の中で少年の夢との折り合いを付けてみるのも一興です。

※ 生まれ持った指の長さや腱を含む関節強度の影響が大きい
※2 究極的にはど根性なので、試してみる価値はある

#6へ続く



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