昨今、ガンダム作品のBlu-rayディスクBox化が盛んであるが、個人的に最もBDBOX化して欲しいのが、機動戦士ガンダムMsIglooシリーズだ。

何を隠そう、現在も最も高い頻度で観ている作品なのだ。中古でBDを個別に買おうかと思うくらいだが、もしも格安のBOXで出たら「詳細不明なれどダメージ甚大!」なので手が出ない。

MsIglooの良いところは、30分と短く、その短い中に宇宙世紀を多分に臭わせる演出が程良く散りばめられている点である。ガンダムUCも良いのだが、ディスクの起動が遅いという難点がある。


では、MsIgloo2たる重力戦線は、どうかというと、一年戦争や宇宙世紀を醸し出す演出があざとく感じるのだ。もっと言うと、演出が薄く、その演出の内容がない。以前にも書いたが、グフカスタムが出てきても三次元戦闘せずにただ出てくるだけ、陸戦ジムが出てくるだけ、ワッパと吸着爆弾が出てくるだけ、・・・と言った「これ出しとけば、ガノタが喜ぶだろう」とも思える意味を持たせた演出がない。ちょうど、絵だけは綺麗だけどクソゲーと言う昔のバンダイのゲームを彷彿とさせる。

そんな訳で、ガンダム世界の定番である小道具を上手に使って、架空の宇宙世紀の世界に浸れる作品はMsIglooシリーズ(2を除く)であった。

しかし、ここに新星が現れた。



「小道具を使った意味ある演出と高いSF成分」

彼のヒッチコック監督は、一に小道具、二に小道具と言ったそうだが、宇宙世紀を演出する小道具がこれほど巧みに使いこなされた作品はなかったのではないかというのが、Zガンダムの時代を別視点で描いた機動戦士ガンダムAoZシリーズ「刻に抗いし者」、「エゥーゴの蒼翼」。

第一の特徴は、全宇宙世紀ものの中で、最も宇宙世紀特有の小道具が意味と整合性を持って登場する点である。また、それらが登場する意味があるだけでなく、これまでの作品では語られることがなかった運用方法や運用理由についてまで細かく説明されているのだ。

一例を挙げると、元MS特技兵を隊長とする陸戦隊が宇宙巡洋艦にも標準的に存在しており、当然のようにこの陸戦隊にも見せ場たる活躍の場が存在する。あらゆる小道具が登場するが、ビーム攪乱膜に至っても、射出メカニズムと運用方法の改良によって0087の時代でも登場する意義と必然性を持たせている。

第二の特徴として、SF考証がしっかりしている点。ガンダムはあくまで「SF風味」なので、SFにこだわる必要性はないかも知れないが、やはりSF風味が効いていると、読み応えも違ってくる。少しネタバレになるが、アルビオンと同じレーザー推進を採用したコアファイターが登場するのだが、SF作家の作品らしく、最後にニヤリとしてしまうようなその機能を十全に活かした働きを見せる。

第三の特徴は、シューティング感が高いと言う点である。活字媒体でのMSの戦闘描写は、作品によって大きく異なるが、このシリーズではテンポが良く、スピード感がある。また、善いか悪いかは別になるが、連係プレーが多い為、近年のガンダムゲームのようでもある。



「描写」

人物の濃さや意志の強さにおいては富野御大の右に出る者はいないが、この作品に出てくる強化人間に関しては、全ガンダム中、個人的には唯一、感情移入できた。

他の作品は、可哀想過ぎたり、壊れ過ぎたり、意味不明過ぎたりして、逆に感情移入できなかったのだが、この作品の強化人間は、撃退しても撃退してもターミネーターのように復活して何度も主人公達の前に立ちはだかり、そして大変に手強くて憎たらしく思え、初めはその生還に悔しさを感じる。しかし、その生い立ちと父親、彼女を支える士官アーネストを知るうちに、最後は主人公ではなくこの強化人間ロスヴァイセとその恋人となるアーネストを応援してしまうという逆転現象が起きるほどで、MS戦の成り行きを読むのに「どうか死なないで」と手に汗を握ってしまう。

この作品における特別な人間はこのロスヴァイセのみで、他の人間は普通の人であり、誰もが非常な努力家であると言う所もこの作品の特徴である。どのパイロットも、才能はあれど普通の人なので、生き残るために日夜努力と工夫を欠かさない。百戦錬磨のエースパイロット言えど、強化人間に対しては徹底的にシミュレーションを繰返し対策を練り続ける。敵となるティターンズのパイロットも、万策を最善策を次善策をとあらゆる手を使って生き残ろうとする。戦闘における生への執着心が観られ、戦闘が薄っぺらいZガンダムを補完しているかのようだ。

Zガンダムは、戦闘が淡泊で一撃必殺の描写が多かったが、同時代を描いたこの作品はその対局で、部分破壊や撃墜後の脱出が多い。この辺りは、上にも書いたが善い悪いは別として、近年のガンダムゲームのノリに近い。一撃必殺で勝負が決まることはないが、敵も味方も無傷で終わることはなく、主人公機も毎回満身創痍となり、修理やパーツ不足となる。予備パーツや専属メカニックを持たないはずの鹵獲機が大活躍するガンダム作品とはリアリティの根本が異なる。



「その他」

燃え要素として、ジムキャノン兇活躍する。ジオン残党でカラバと共闘してティターンズに立ち向かう人員と物資不足の組織で、近接戦闘までもこなさざるを得ない為、ヒートホークを装備したジムキャノン兇激しく格好いい。

バーダー少佐という策士ではなく純粋な悪の戦闘狂が出てくるのだが、この人物の最期はどうなるのだろう、死ぬにしても戦闘で主人公に墜とされてしまっては、むしろ本望で喜んでしまうのではないか?と心配していたが、納得できる描かれ方に感心。

アムロがホンのちょっと出る。リックディアスを操るアムロは超絶的に強く、Zで描かれたへたれアムロが気に入らなかった人も溜飲が下がるだろう。

近代化改修されたアッガイに乗り込む二人のジオン残党水陸両用MSパイロットが登場し、後に彼らはザクマリナーへと乗り換える事となり、死線と波乱の波を乗り越えて辛くも生き残るのだが、この二機こそがUC4に出てくるジオン残党のザクマリナーではないかと言う妄想が楽しめる(違うと思うけど)。

(アイリッシュ級とアレキサンドリア級は、一体何隻建造されたんだ!?)

そして、最も泣けるガンダム小説である。


と言う事で、全8巻というガンダム小説の中でも最長編の部類に入るが、宇宙世紀ものが好きな方は勿論、UC7の完結編まで待てない方のつなぎとしても、是非読んで頂きたい作品である。

2013-冬号へ続く



【関連】
月刊「ガノタ塾」 2009-1月号
月刊「ガノタ塾」 2009-2月号
月刊「ガノタ塾」 2009-3月号
月刊「ガノタ塾」 2009-4月号
月刊「ガノタ塾」 2009-5月号
月刊「ガノタ塾」 2009-6月号
月刊「ガノタ塾」 2009-7月号
月刊「ガノタ塾」 2009-8月号
月刊「ガノタ塾」 2009-9月号
月刊「ガノタ塾」 2009-10月号
月刊「ガノタ塾」 2009-11月号
月刊「ガノタ塾」 2009-12月号
季刊「ガノタ塾」 2010-春号
季刊「ガノタ塾」 2010-夏号
季刊「ガノタ塾」 2010-秋号
季刊「ガノタ塾」 2010-冬号-上巻
季刊「ガノタ塾」 2010-冬号-下巻
季刊「ガノタ塾」 2011-春号
季刊「ガノタ塾」 2011-夏号
季刊「ガノタ塾」 2011-秋号
季刊「ガノタ塾」 2011-秋号増刊
季刊「ガノタ塾」 2011-冬号
季刊「ガノタ塾」 2012-春号
季刊「ガノタ塾」 2012-春号増刊
季刊「ガノタ塾」 2012-夏号
季刊「ガノタ塾」 2012-秋号
季刊「ガノタ塾」 2013-春号
季刊「ガノタ塾」 2013-夏号
季刊「ガノタ塾」 2013-秋号
季刊「ガノタ塾」 2013-冬号
私もガンダムで考えた