プロローグ
「お父さんは心配性」


神戸のとあるジムへ通っていた時の話。

奥さんに無理矢理入会させられて、毎日、一緒に付いて来るのはいいが、何をやっていいのか解らいのか何もしたくないのか、ほとんど運動せずに休憩所で奥さんが戻って来るのをハチ公よろしく待っているお年寄りの方を見かけたりする。

そのような光景は希だと思うが、ある時、このご老人が更衣室のベンチに腰掛けたまま、微動だにせずロッカーを凝視しているのを見かけた。

普通であれば、今日は自販機コーナーまで行けないくらい体調が悪いのだろうと思うはずだ。



しかし、頭がアレなマスターは、

「このご老人は何十年も前に引退した鍵師で、今も自分の腕がまだ通用するかどうか、ふと思いついてしまい、目の前の施錠されたロッカーで試してみるかみまいか思案しているに違いない!」

瞬時にそこまで妄想してしまうので、その日はリフティングストラップなどを入れた小袋に財布を入れて肌身離さず、持ち歩いてトレーニングを行った。


本編
「鍵は誰のためにかける?」


別の日の夜。

トレーニングを終えて、ロッカールームで着替えようとした時のこと。

いつも見かける格好付けの兄ちゃんがベンチにうな垂れるように座り込んでいた。背を丸めながらも何故か充血した眼は下ではなく、ロッカールームに入ってくる者を次々とロックオンしているようだ。

草食系でも肉食系男子でもなく男色系やったんか〜と思いながらマスターがロッカーを空けると、彼の視線が開かれたロッカー内部をさらうように注がれているのに気がついた。



帰り支度を終えているはずなのに、上はカッチリとした普通の私服で下は運動着という少々違和感のある組合わせ...。

どうやらこの御仁。
ズボンを盗られてしまったようだ。

風呂かシャワーに入るときに横着をして、ロッカーに鍵をかけなかったのだろう。

シャワーの度にパンツを盗られるんじゃないかと心配になるマスターは、ロッカーと靴置き場が別々になっている施設では、(その日の靴によっては)靴もなるべくロッカー内に格納するくらいなので、全く共感も同情もできなかった。

家に帰るべき所を彼は犯人を見つけたいのか、他の会員がやって来るのを待ち受けて、ロッカーの中を逐一チェックしていた訳だ。



さて、この話の教訓は、ちょっとの間でも荷物から離れる時は鍵をかけましょうというベタな内容になるが、もう一つ、大事なポイントがある。

何だろう?



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