「Wフィールドの赤い彗星」-前編

1写真は、U.C.0080に納められた陥落後のア・バオア・クーWフィールド近海を浮遊するMS-06F2の亡骸である。

ジオンのMSやパイロットに多少興味がある者なら、この写真のおかしな点に気付くはずだ。

このMS-06F2は、ジオンのエースパイロット「シャア・アズナブル大佐」がかつて駆ったMS-06Sのカラーリングに酷似している。もちろん、SフィールドでMSN-02に搭乗していたシャア大佐の機体ではないことは明かである。

この赤い彗星カラーに染められたMS-06F2の存在を理解するには、最終局面においてア・バオア・クー防衛本部が立案したとある作戦とこの機体のパイロットについて知る必要があるだろう。

「接近戦のエース、ダイスケ・ハナザワ」

日系の名を持つジオン軍エースパイロットして一般的には、シン・マツナガ、マサヤ・ナカガワ、ジェラルド・サカイが挙がるだろう。しかし、ダイスケ・ハナザワを強く推す軍事評論家がいることを忘れてはならない。

ハナザワは、サイド3の中でも珍しい日本の血を色濃く引き継ぐ移民第三世代である。多くのジオン兵の例外違わず、若き日にジオン・ダイクンの教えに共鳴し、国防軍へ入隊。元々は戦車兵であったが空間認識能力とマルチタスク能力が評価され、MSパイロットへ転向。開戦の気運高まる中、転化訓練を終了したハナザワはドズル中将旗下の宇宙攻撃軍へ配属される。



開戦後、華々しい目立った戦果を挙げた訳ではないが、ともかく一週間戦争とルウムを生き延びたという紛れもない事実は、ハナザワを名実共にベテランパイロットの仲間入りをさせた。

多くのベテランが同軍団内のシャア中尉の活躍と二階級特進に嫉妬を覚える中、ハナザワは遙か年下であったシャアの戦法や技量に憧れにも似た畏敬の念を自分が抱いていることを素直に受け容れた。それは、遠目に見るシャアの物腰に、敬愛するダイクンの面影を無意識ながらに重ねていたせいかも知れない。

幾多の戦いの後、パーソナルカラーを許されたハナザワは遠慮気味に愛機の左肩をシャアと同じ赤に染めるに留めたのだった。



大尉に昇進したハナザワは、中隊長として大戦後期に赤い彗星と同じ機種であるMS-06Sを受領するが、ベテランパイロットとしては珍しい苦労を経験した。

シャアの一撃離脱の戦法に憧れつつも自身は他のMS乗りから、「スタミナがない」と評されるほどに機動戦や精密射撃を苦手とし、好みに反して泥臭い接近戦を得意としたためだ。

結局、燃費管理が難しいピーキーなその機体を操ることができず、機種転換訓練中に何度も推進剤切れを起こしたため、元の06F2に差し戻され、ほどなくソロモン攻防戦を迎える。



ソロモンにおいて、毒蛇の異名をとるミシマ大隊の一翼を担うハナザワに率いられた第二中隊は、開戦直前の連邦軍威力偵察部隊の一部を排除する活躍をみせるも、そのまま連邦軍の「チェンバロ作戦」が発動されたため、ハナザワ中隊はこれまでにない長時間にわたる戦闘を経験する。

MSの操縦技術においても宇宙空間の機動においても1日も2日も長があったハナザワも長時間の戦闘による疲労と連邦の猛攻の前にあえなく被弾、小破したためにドロワヘと急遽収容された。応急処置の完了を待たずして撤退命令が下ったためにハナザワはドロワと共に、アバオアクーへ落ち延びる事となった。



宇宙攻撃軍の生き残りの多くは、Sフィールドの損耗線へ駆り出されたが、ハナザワを待っていたのは、Wフィールドにおける欺瞞作戦であった。

重力ブロックでのメディカルチェックと強制休養を終えたハナザワに宛がわれた機体は、赤い彗星カラーに染められたMS-06F2であった。連邦にまで勇名を馳せた名だたるエースパイロットのパーソナルカラーに塗装した機体を多数配備することで、連邦軍MS隊の士気を少しでも下げようとする苦肉の策である(※)。

ベテランパイロットにとっては些か不名誉な作戦であったが、ハナザワにしてみれば憧れのシャア・アズナブルに近づけたような感慨がわき起こり、嬉々としてこの機体を受け容れた。


※ Eフィールドでは赤いMAが確認されている。また、ア・バオア・クー防衛戦参戦の記録がない白狼がア・バオア・クー戦で目撃されたのはこの作戦の影響であろう。


季刊「ガノタ塾」2010-冬号-下巻へ続く

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