【プロローグ】

マスターが子供の頃の駄菓子屋は、焼きそばを作ってくれたり、おでんが売られていたりしたので土曜日のお昼にそれを充てる事もあった。

小学校に上がる前の冬のある日、マスターと姉は、母親をえらく怒らせた。

寒風吹き荒ぶ夕方、家を追い出された姉弟。
凍える寒空の下、行く当てのない二人。姉がポケットを漁ると、そこには100円玉。

思えば、おでんの相場は今とさほど変わらなかったのだろう。1個しか買えなかった卵をアパートの階段の下で身を寄せながら、溢さぬよう溢さぬよう分け合って食べた。

一杯のかけそばならぬ1個のおでんは、一時の寒さを忘れさせたが、やがて日が沈みガタガタとなり始めた。とその時、ちらつく街灯のぼやけた光の向こうに見慣れた歩き姿が。

「パパぁぁぁーーー!!!」

【関西では何故か関東煮(かんとだき)と言う】

さて、幼少期のマスターが食した件のおでんは、醤油ベースの濃い汁にしっかり漬け込まれたおでんであった。舞台が愛知県なので、昆布鰹ラインを東へ越えているからだ。

一方、現在住んでいる関西のおでんは、鍋底が見える昆布ベースのダシで煮込まれていると言う関東との違いは誰でも知っていると思うが、あなたは姫路式おでんをご存じだろうか?

姫路式は、かなり薄味で煮込んだおでんに醤油とおろしショウガをかけて食すスタイルである。そして、何を隠そうマスターのワイフの実家のおでんが姫路式なのだ。

濃口東日本スタイルでおでんデビューしたマスターにとって、最初は物足りない感じがしたが、今はこの姫路式が大好物だ。

おでんのダシと醤油、ショウガ、卵の黄身、潰したジャガイモが渾然一体となった器の残り汁の旨いこと旨いこと。ショウガパワーも手伝って、身体が温まる温まる。マスオさんもビックリの図々しいマスターは、風邪のひき初めには良くリクエストする。



【いよいよ本題】

食に関する伝統的な組合わせや味付けというモノは、味覚だけがそうさせたのではなく、淘汰と進化を繰り返した科学的結晶であることが多い。

おでんは、魚の練り肉を主体にしたものが多く、あなたがフェイクをつかまされていない限り(※)は、非常に高タンパクの料理なのだ。そして、薬効が高いショウガには、タンパク質分解酵素、すなわちプロテアーゼが豊富に含まれるのだ。

つまり、高タンパクの食品にプロテアーゼを多く含む薬味を添えて食べる様式は、非常に理に適った食べ方と言える。

また、ショウガは胃液の分泌を促進するので、胃でのタンパク質消化や食欲促進にも役立つ。

姫路式おでんは、身体が温まるだけでなく、タンパク質の体内利用率が高まる合理的な食べ方なのだ。

そんな訳で、諸君。
今度、高タンパク質料理のチャンピオン「おでん」を食べる時は、姫路式に挑戦してみよう。

※ 多く流通するフェイクは、素材の問題だけでなく添加物テンコ盛りと言う問題もある

#6へ続く



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